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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和53年(う)76号 判決 1979年8月28日

本店所在地

福井県鯖江市莇生田町二三号八番地

貨泉プラスチツク株式会社

右代表者代表取締役

貨泉泉

本籍・住居

福井県鯖江市莇生田町二三号八番地

会社役員

貨泉泉

大正九年一一月一日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、昭和五三年四月二五日福井地方裁判所が言い渡した有罪判決に対し、被告人らから適法な控訴の申立があつたので、当裁判所は、検察官有村秀夫出席のうえ審理をして、次のとおり判決する。

主文

本件各控訴をいずれも棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人金井和夫名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

控訴趣意第一点(原判決罪となるべき事実第二の事実についての理由のくいちがい)について

所論は要するに原判決はその罪となるべき事実第二で被告人法人の所得額を起訴状記載の額よりも三九〇万円減額してこれから当該年度の法人税ほ脱額を認定したが、右減縮金額は原判決が実仕入であることを否認した「山本インキ」からの仕入金額と一致し、原判決が被告人らの主張事実を肯認した「光栄化学」「埼玉化工」「松岡義信」からの仕入額合計二一〇万円とは一致しないのであるから、原審はその理由説明中では否認した「山本インキ」からの仕入を実際には実仕入と認定し、前記の他三件の仕入は事実上は否認したのではないかとの疑を容れる余地さえあるのであつて、原判決はこの点において理由のくいちがいがある、というのである。

所論にかんがみ記録を調査して検討するに、原判決は罪となるべき事実第二の事実について所論のとおり被告人法人の所得額を三九〇万円減額して認定し、右減額分が原判決が実仕入であることを否認した被告人ら主張の「山本」からの仕入額と合致し、実仕入である事実を認定した所論他三件の仕入額計二一〇万円とは合致しないことは所論のとおりである。

しかしながら原判決がその罪となるべき事実第二において起訴状記載の法人所得額より三九〇万円減額された法人所得額を認定したことそれ自体及び右減額の根拠、理由は「山本インキ」からの仕入金額と所論他三件の仕入金額とを所得計算に際し取りちがえて算入したことによるものと認められることは判決書それ自体から明らかであるわけではなく、本件起訴状の記載、原判決罪となるべき第二の事実に関し挙示する全証拠ならびに原判決の理由説明を仔細に総合検討してみてはじめて解明、認識される事情であるのみならず、右の違算は公訴を提起された犯罪事実全部乃至は大部分の存否を左右するような性質を有していないのであるからかような法人税ほ脱額算出過程上の単なる計算上の誤は刑事訴訟法三七八条四号の判決「理由にくいちがいがある」場合に該当せず、同法三八二条の「事実の誤認」のある場合に該当すると解するのが相当であるから、所論は畢竟原審が法人所得額計算を正しく行なえば当該年度の被告人法人の所得額は原判決認定のそれより一八〇万円多額であつて法人税ほ脱額もこれに対応する分だけ増加する筈であるとの理由で原判決の事実認定を批難することに帰し、このように犯罪事実が数量的に原判決より大であることを理由として上訴をする利益を認める必要は原則としてないから、他に特段の事情の認められない本件では右事実誤認について被告人らに控訴を申立てる利益は認められないものというべきである。論旨は理由がない。

また職権により検討してみても原判決は被告人らが被告人法人の昭和四六年六月一日から同四七年五月三一日までの事業年度における所得金額が実際は五、四〇二万一、四九六円であるのにこれより二、三八五万三、八〇七円過少に申告し、同四七年六月一日から同四八年五月三一日までの事業年度における所得金額が実際は七、七五一万五、九九九円であるのに、これより二、九三四万一、〇八九円過少である旨ことさらに申告し、これに対応しそれぞれの事業年度の法人税をほ脱した事実を認定し、これを併合罪として各被告人につきそれぞれ一個の刑を言い渡したもので、その過少申告額は計五、三一九万四、八九六円に及ぶところ、原判決挙示の証拠に基づき、原判決罪となるべき事実第二の事実に関する仕入の実在性の有無に関する理由説明に従つて昭和四七年六月一日から同四八年五月三一日までの事業年度の被告人法人の法人所得額を適正に計算すれば同年度の同法人所得額は七、九三一万五、九九九円と算出すべきものであるから、結局原判決は違算のため同年度の被告人法人の所得額を一八〇万円だけ過少に(被告人らに有利に)算出したものと認められるのであつて、右の両事業年度の過少申告金額の合計額や本件につき検察官の側からの控訴の提起はなされていない事情等と比照して検討すれば右違算による事実誤認はなお判決に影響を及ぼすまでには至らず、従つて原判決は右事実誤認にもかかわらず、なおこれを破棄する必要はないものというべきである。

控訴趣意第二点(原判決罪となるべき事実第二の事実についての法令適用の誤)について

所論は要するに原判決はその罪となるべき事実第二の事実の法人税ほ脱額算出につき、国税通則法一一九条、国税の確定金額端数計算等の規則を適用せず、一〇〇円未満の金額まで計上した誤があり、右誤が判決に影響を及ぼすことが明らかであるというのである。

所論にかんがみ記録を調査するに、原判決が所論の法人所得に関し国税通則法一一九条等所論の法規を適用せず、一〇〇円未満の法人税の確定金額を切り捨てなかつた事実は認められるが、元来右規定等は徴税計算の便宜上余りに少額な税額部分を切り捨て処理するものに過ぎないから、右規定等を適用しなかつた誤は本件のごとき法人税ほ脱事犯の判決になんらの影響をも及ぼすものとは考えられない。論旨は理由がない。

控訴趣意第三点(青色申告承認取消処分以前に同処分がなされたものとして公訴が提起された点に関する法令適用の誤)について

所論は要するに本件公訴の提起は被告人法人につき未だ青色申告承認の取消処分がなされる前の昭和五〇年七月一六日に同処分がすでになされたことを前提として法人税ほ脱額を算出してなされている点に違法があるのに、この点についての原審における弁護人の主張につきなんらの判断も示さなかつた原判決には法令適用の誤があり、右誤が判決に影響を及ぼすことが明らかであるというのである。

しかしながら公訴の提起日に未だ青色申告承認取消処分がなされていなくとも(本件につき公訴提起日は昭和五〇年七月一六日、青色申告承認取消処分は同年八月一八日)、原審口頭弁論終結時までに同処分が当該犯罪年度にまで遡つてなされた以上右取消処分を前提として法人税ほ脱額を算出すべきことは既に確定した法理であると認められ、被告人ら自身原審口頭弁論終結時に同処分のなされていたことは認めるのであるから、右弁護人主張の公訴提起時の瑕疵についての特別の説示を欠いたとて原判決には右の点に関する法令適用の誤はない。論旨は理由がない。

控訴理由第四点のその一(「山本インキ」からの三九〇万円の実仕入の存在を否認した点の事実誤認)について

所論は要するに原判決がその罪となるべき事実第二の事実に関し被告人ら主張の「山本」からの原料三九〇万円の仕入の事実を認めなかつたことが事実を誤認したもので、右誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。

しかしながら所論にかんがみ記録を調査して検討するに原判決挙示の関係証拠を綜合すれば、所論にもかかわらず「山本」からの原料仕入三九〇万円は架空のものであるとの原判決の認定は優に肯認することができる。

すなわち右仕入取引を証する記録は被告人会社保管のルーズリーフノート上の「山本」なる不完全なメモの記載であるところ、総勘定元帳に三九〇万円の仕入取引の記載のある、従来被告人法人と若干の取引関係のあつた該当の「山本インキ株式会社」については同社に対する調査によりこれに相当する取引は存在していないこと及び「山本インキ株式会社」に対する右仕入代金支払のため振出された小切手は被告人法人自身において取立、回収している事実が確認されるのであるから、右取引の実在について説明をする原審証人貨泉秋男が昭和四八年いわゆるオイルシヨツクの影響によりプラスチツク原料が払底していたころ被告人貨泉泉からその買付方を依頼されていたところ、東京都世田谷区に所在する右秋男方に突然誰からの紹介もなく「山本某」と称する従前一面識もなく名も聞いたことのない男から電話によりプラスチツク原料売買の申込があり、秋男もこれに応じて原料仕入のため被告人会社から預り保管していた現金をもつて三九〇万円の原料(A・B、S樹脂)を買付け、内容物も実検せずに、紙袋のまま受領し、受領証も徴せずに代金を現金払し、右山本某との取引は右一回のみであつて継続的取引の申込などもどちらからもなされず、右山本がどこのどのような人物であるかも不明で、その後の交渉も一切ない旨述べ、さらに原審証人貨泉澄男が、右貨泉秋男からの連絡を受けこれを帳簿に記入する際山本某からの仕入と記入すべきところ、総勘定元帳上従来取引のあつた山本インキ株式会社からの仕入と誤記した旨述べるからと云つて、かかる商業取引の通念から到底理解できないような不合理な供述を措信せず、右山本某からの三九〇万円の仕入の実在性を否認した原判決の認定は肯認でき、所論のうち取引先の実際性等が確認できる他三件の仕入は右「山本某」からの仕入とは事情を全く異にするのであつて、原判決にはこの点についての事実の誤認はなく、論旨は理由がない。

控訴理由第四点のその二(仮名預金から発生した受取利息の被告人法人への帰属性を認定した事実誤認)について

所論は要するに本件に関係する仮名預金中には被告人貨泉泉らの個人資金が混入しているのに、これが全部被告人法人に帰属することを前提とし、これから発生する受取利息全部を被告人法人に帰属する益金としてその所得を計算した原判決には事実の誤認があり、これが判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。

しかしながら、所論にかんがみ記録を調査し、当審における事実取調の結果をも参酌して検討するに、原判決挙示の関係証拠を総合すれば、所論にもかかわらず、所論の受取利息全部が被告人法人に帰属する益金であるとしてその所得を計算した原判決の事実認定は優に肯認することができる。

すなわち、被告人法人は昭和四〇年六月二〇日設立され、それまで被告人貨泉泉が個人として経営していたプラスチツク加工、販売事業をそつくり引きついで営業しているものであるが、右個人経営の時代には仮名預金は設けられておらず、法人設立後設定されて金額も漸増し、また現金類は会社の資産と個人金とを分別保管してあつたのに右の仮名預金証書類はそのような分別保管はしておらず、本件の捜査の段階では被告人貨泉泉自身右預金は被告人法人の資産であることを認めその増加分は売上の一部を除外して正規の帳簿に記載せず、右除外売上の売上金の預入によつて発生させ、所得を隠蔽していた旨自供している事実を総合すれば右仮名預金が被告人法人に帰属する資産であることはおおよそ認定できるのみならず、本件各事業年度の売上除外金から当該年度の期末売掛金額、期末受取手形金額を差し引き、これに期首売掛金、期首受取手形金を加え、これにさらにそのほとんどが元本化されたものと考えられる仮名預金の利息等を加算すれば、当該事業年度の仮名預金額増加額に見合う源資は優に算出できる(別紙計算書参照)ことによつても裏づけられるのであるから、本件仮名預金はすべて被告人法人に帰属するものと認めるのが相当で、被告人貨泉泉が、右仮名預金中には被告人法人の資産と被告人貨泉泉らの個人財産が分別し難く混然として一体化されている旨根拠もない供述をするからとてこれを俄に信用するわけにいかないことは当然であるし、また営業年度中に被告人貨泉泉ら個人名義の多少の預金が被告人法人名義の預金に振り替えられている事実があるからといつて、他に特段の事情の認められない本件では右はその形式どおり貸付または贈与等により個人金が会社資産に転化したものと考えるのが相当で、右の事実があるため被告人法人名義の現金預金等がすべていわば半公半私的な法人税法上被告人法人の資産たることの証明のつかない財産になるなどとは到底いえない。論旨は理由がない。

控訴理由第五点(量刑不当)について

所論は要するに原判決の量刑が重きに過ぎて不当である、というのである。

そこで所論にかんがみ、さらに記録を調査して検討するに本件法人税のほ脱額特にそのほ脱方法が多数の仮名預金口座を設定して所得を隠匿し、公判廷においてまで同族会社で経理が設立時以来ずつと不明瞭であることを逆に奇貨として法人財産の帰属を故なく争い、犯跡を韜晦しようとするなど悪質である事情に徴すれば、所論のうち肯認し得る被告人に有利な諸事情を十分斟酌しても、なお原判決の量刑が破棄を免れないほど重きに過ぎて不当であるとはいえない。論旨は理由がない。

よつて、本件控訴は、その理由がないから刑事訴訟法三九六条に則り、これを棄却することとする。

以上の理由により、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 辻下文雄 裁判官 石川哲男 裁判官 宮平隆介)

計算書

<省略>

○昭和五三年(う)第七六号

控訴趣意書

被告人 貨泉プラスチツク株式会社外一名

右に対する法人税法違反被告事件について、控訴の趣意を下記のとおり開陳する。

第一 原判決は、理由にくいちがいがあり破棄を免れない。

(1) 原判決は、理由の(罪となるべき事実)第二において「昭和四七年六月一日から同四八年五月三一日までの事業年度における被告会社の所得金額は七七、五一五、九九九円で、これに対する法人税額は二八、〇三五、八八三円である」旨認定し、結論として「同会社の上記事業年度の正規の法人税額二八、〇三五、八三三円との差額一〇、七八二、八八三円をほ脱した」旨判示している。

(2) これは、公訴事実第二の起訴事実に対応するものであるところ、起訴にかゝる同事業年度の所得金額八一、四一五、九九九円を三、九〇〇、〇〇〇円減額し、その減額した所得金額に対する法人税額及びほ脱額を算定しているものであることは一見して明かである。

(3) そして、右減額の理由は、(事実認定の補足的説明並びに弁護人の主張に対する判断)一、架空仕入についての記載からすると、検察官が架空仕入と主張する(1)「山本インキ」(2)「光栄化学」(3)「埼玉化工」(4)「松岡義信」からの仕入のうち、(2)乃至(4)を真実の仕入と認定した結果と解せられる。

(4) しかし乍ら、右(2)乃至(4)の仕入類は、合計二、一〇〇、〇〇〇円であつて、これを起訴にかゝる同事業年度の所得金額八一、四一三、九九九円から差引くと七九、三一五、九九九円とならねばならぬ。

(5) 前記判示により減額された三、九〇〇、〇〇〇円は、原判決が架空仕入と認定したかにみえる前記山本インキの仕入額と一致する。とすると、原判決は、逆に山本インキの仕入を真実の仕入と認定し、他の三件の仕入を否認したのかも知れないという疑さえ挾む余地を生ずる。

(6) いずれにしても、原判決は、この点において明白な理由のくいちがいがあり、この一点を以つてしても破棄は免れない。

第二 原判決は、法令の適用に誤があり、その誤が判決に影響を及ぼすことが明かであるので破棄を免れない。

(1) 原判決は、前記第一(1)記載のとおり、昭和四七年六月一日から同四八年五月三一日までの事業年度の所得金額に対する法人税額を二八、〇三五、八八三円、ほ脱額を一〇、七八二、八八三円と認定判示している。

(2) しかし、国税通則法第一一九条、国税の確定金額端数計算等の規則によれば「国税の確定金額に一〇〇円未満の端数があるときはその端数金額を切り捨てる」旨定められているのであるから、右原判決が一〇〇円未満の端数を切り捨てないで法人税額を認定したのは疑もなく違法であり、この違法によつてほ脱額の算定に語謬を生ぜしめているのであるから、原判決は、この点においても破棄を免れない。

第三 原判決は、法令の適用に誤があり、その誤が判決に影響を及ぼすことが明かであるので破棄を免れない。

(1) 原判決は、理由の(事実認定の補足的説明並びに弁護人の主張に対する判断)三、青色申告承認取消の効果についての項において、青色申告の承認を取消されたものとして所得額、ほ脱額の算定を行つた本件起訴は不適法である旨の弁護人の主張を排斥している。

(2) しかし、検察官は、冒頭陳述書の別表1の当期増減金額説明益金の部<4>において「被告会社は、法人税法第一二七条第一項三号により昭和五〇年五月一八日付で当期にさかのぼつて青色申告の承認が取消されている」と主張しているところ、本件青色申告承認の取消処分がなされたのは同年八月一八日であつて五月一八日ではない。そして、本件公訴の提起は、右取消処分前の同年七月一六日である。つまり、弁護人は、本件公訴が未だ行政官による当該取消処分がなされていない時点で、既に当該処分がなされたものとして提起されている点に不適法があると主張しているのであるが、原判決はこの主張に対し何らの判断も示していないのである。

第四 原判決は、事実誤認があつて、その誤認が判決に影響を及ぼすことが明かであるから破棄を免れない。

(その一)

(1) 原判決は、前記第一記載のとおり、四件の架空仕入に関する争点に関し、「光栄化学」「埼玉化工」「松岡義信」の三件については真実の仕入である旨認定したのに、独り「山本インキ」の件については「山本からの仕入れが昭和四八年五月中に行われたとの心証を得ることはできず」として逆にこれを架空仕入と認定する内容の結論を出している。

(2) しかし、ルーズリーフメモ(昭和五〇年領第三五九号符四号)及び貨泉秋男、貨泉澄男の各証言によれば、実際に昭和四八年五月中山本某なるブローカーから三、九〇〇、〇〇〇円の仕入を行つた事実は明白といわねばならず、すべての状況から推してもこれ丈を他の三件と別異に判断すべき必然性は全くない。原判決は、証人都竹の証言を引用するが同証人の証言する山本インキ株式会社からの同年六月中の仕入と本件「山本インキ」からの仕入として記帳処理されている仕入とは全然別個のものである。六月中の山本インキ株式会社からの仕入額は三、〇〇五、〇八〇円であつて三、九〇〇、〇〇〇円ではない。又ルーズリーフメモの記載が必しも明確なものでないと言うが、同メモは本件公訴とは無関係に当時の混乱のさなかで何等の作為もないものであつて、必しも明確なものでないことこそ却つて真に信ずべき証拠たる所以といえよう。更に証人貨泉澄男の証言を甚だ便宜的説明であるときめつけるけれども、当時石油パニックによつて惹起されたプラスチツク業界の混乱状態、殊に原料入手のため手段を選ばず狂奔していた状況を正しく認識するならば、決して索強附会の説明とは断じ得ない筈である。

(その二)

(1) 原判決は、本件の重要な争点の一である受取利息の点について、昭和四七年五月期、昭和四八年五月期の各受取利息の発生源である仮名預金がすべて被告会社の預金であるとする検察官の主張を鵜呑みにして「これらに昭和四〇年の被告会社設立以前からのものが含まれていることを認めるに足りる証拠はないこと等から本件受取利息はいずれも被告会社に帰属するものと認めるのが相当である」旨判示している。

(2) しかし、右判断は基本的な誤を冒している。即ち、原判決は「被告人両名もいずれの仮名預金が個人のものなのか明確に主張しない」と言うけれども、被告人ら自身個人の資金がその仮名預金の一部の資金源になつていることは判つていても、会社の資金と個人資金とを事実上一括して銀行預金に運用していた関係上明確に区別できない立場にある。そのような場合、被告人らとしては、個人資金が混入していることの可能性を主張立証すれば足りるのであつて、その立証が一応成功するならば、後は検察官においてその内訳を主張立証すべき責任があるのである。

(3) これを本件についてみれば、被告人らは本件仮名預金の内には個人資金によつて形成されているものが存する旨主張し、証人中村政一、貨泉澄男の各証言及び被告人貨泉泉の供述等によればその点の可能性は十分立証されているとみるべきである。即ち、被告会社は昭和四〇年六月に個人貨泉泉の事業を組織変更して株式会社として貨泉プラスチツク株式会社として発足した同族法人である。仮名預金がこの個人事業時代から存在したことは鯖江信用金庫河和田支店調、預金異動表(別表)及び証人中村政一の証言によつても明かである。そもそもこの預金の発生は被告会社が法人化に際し、個人の資産の引継を正確に行わず一部未済のまま法人に持込まれその未済のものが自然発生的に仮名預金となつたもので、それが正確に引継がれていれば、未払未収という形で処理されているべきものである。それらのものと個人の給与あるいは個人資産(土地譲渡)の売却等の個人所得の変形資産の累積が本件昭和四六年六月一日現在原判決対象期の期首預金となつたものである。でなければ、被告人泉と会社に籍を置いたその家族らはあり余る給与と個人資産の売却益をすべて蕩尽したことになるが、常識的に考てそのような判断をなすことができるであろうか。更に、原判決は、発生源たる仮名預金については被告会社の売上除外分だけで充分それにまわすだけの余裕があることが証人前田正視の証言からゆうに認められる旨判示するが、これも次のとおり事実誤認である。

(イ) 昭和四七年五月期売上除外金一九、八六五、四一七円のうち期末に売掛金として残つたもの二、七七七、八一〇円と受取手形として期日未到来の分一、三〇七、〇〇〇円を差引くと預金となり得る金額は一五、七八〇、六〇七円

(ロ) 昭和四八年五月期売上除外金一九、三六六、五二〇円のうち期末に売掛金として残つたもの四、一九六、一五〇円及び受取手形として期日未到来の分二、二六六、〇六〇円と前期末未収分を加算差引した当期分収入計一六、九八九、一二〇円から期中に購入した現金支出土地代六、二三七、一二〇円を差引くと預金となり得る金額は一〇、七五一、〇〇〇円となり(イ)+(ロ)合計(A)二六、五三一、六〇七円となるのに対し、仮名預金の増加は昭和四七年五月期一六、七三六、九七五円、昭和四八年五月期一七、七五四、三六七円二期分合計(B)三四、四九一、三四二円となるのである。こゝにおいて売上除外金のうちの預金資金可能金額(A)二六、五三一、六〇七円と仮名預金増加額(B)三四、四九一、三四二円と比較すると単純に計算しても仮名預金の増加額が差引金七、九五九、七三五円、過大になるのである。そしてこの過大となる仮名預金の増加分こそ被告人ら一族の個人資金によるものとみるべきである。証人前田が証言の根拠とする個人収支表等についても、その計算内容は調査過程において、被告人らには全然開示されず国税査察官の憶測で作成されたもので信用に価しないものであることは被告人らの反証によつて今や歴然としているところである。

凡そ法人税の課税標準である所得は「当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を加除した金額とする」の原則によつて真実の損益、貸借を立証しなければならないのに、形式的損益のみをもつて犯則、犯罪の構成要件を充足するとするは「疑わしきは罰せず」という刑事裁判の大原則にもとるものと謂うべきである。

第四、原判決は、その量刑が不当である。

(1) 原判決は、被告会社に対し、罰金五五〇万円、被告人貨泉泉に対し執行猶予付き乍ら懲役六月の刑を言渡した。

(2) しかし、以上に詳述した諸事実、諸事情及び弁論要旨第三で陳述した諸事情を考慮すれば、右量刑は明かに不当である。

昭和五三年六月二七日

右弁護人 金井和夫

名古屋高等裁判所

金沢支部 御中

○昭和五三年(う)第七六号

控訴趣意補充書

被告人 貨泉プラスチツク株式会社外一名

右に対する法人税法違反被告事件について、控訴の趣意を下記のとおり補充する。

一、被告会社は、昭和四〇年六月に個人貨泉泉の事業を組織変更し資本金五〇〇万円にて発足した同族法人であるが、別紙(一)の貸借対照表は、この個人から法人への引継時の被告会社の貸借対照表である。同貸借対照表は被告会社貨泉プラスチツク株式会社の設立時の資産、負債の状況を示すものであること、負債の部の設立未払金一八、一五八、四一五円は、設立された株式会社が個人貨泉泉の事業を継承した際の個人の資産、負債のうち資産が負債を超過した差額を個人貨泉泉に対する未払金として経理処理したことを示すものである。この設立未払金は昭和五三年五月三一日現在においても、なお金一四、三一四、八七一円が個人貨泉泉に対する未払として残つている。そしてこの設立未払金債務については被告会社貨泉プラスチツク株式会社は利息等を一切支払つていない。

二、又、右設立時の貸借対照表に計上されている借入金は、鯖江信用金庫河和田支店の別紙(三)の残高証明書のとおりであるところこの借入金残高債務金二二、三〇〇、〇〇〇円に対しては担保として個人預金(個人本名仮名預金)が提供されていたのである。

三、次に、鯖江信用金庫河和田支店調預金異動表と別紙(三)の収入伝票写を綜合すると、同支店に昭和四五年五月三一日現在において存在した仮名預金の内山崎信二外八名名義の仮名預金の発生経緯及び現在額は別紙(四)の検討表記載のとおりであることが明かである。この資金一〇〇万円は、被告人貨泉泉が昭和四〇年一〇月初ころ自宅を訪れた同支店の外務員滝清に対し、適宜仮名預金方を依頼して手交した手許の自己所有の現金一〇〇万円で充てられたものである。抑々同年六月に多額の設立未払金を抱えて設立したばかりの被告会社には、かゝる時期にかかる仮名預金をなすなどという余裕は到底存しなかつたのである。そして、これらの預金も発生以来一回も解約されず本件国税局の調査時迄存続し、被告会社の仮名預金とみなされているのである。しかもこれは、今回の認定された昭和四六年六月一日現在の仮名定期預金九三、二七二、六四七円中に被告人個人貨泉泉一族の個人の仮名預金が混入していることの一例に過ぎない。

四、前記設立時の貸借対照表にみられる如き、設立時資本金五〇〇万円、しかも設立未払金一八、一五八、四一五円のような、過小資本でしかも多額の設立未払金を残す不完全な法人化では引継未済の財産のあることもむしろ当然といわざるをえない。同族法人とはいえ、個人に対する設立未払金でしかもそれが長期債務となれば、相当の金利が支払われてしかるべきものと考えられるのに、被告会社の場合はこの長期債務に対し設立以来一銭の金利も支払つていないのが実情である。まことに不完全な経理処理といわざるをえない。

要するに、被告会社への引継未済、設立未払金の決済の未処理等の基本原因を究明することなくしては、軽々に本件仮名預金の帰属を判断し難いことは明かである。

昭和五三年一〇月一九日

右弁護人 金井和夫

名古屋高等裁判所

金沢支部 御中

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